THP(Total Health promotion Plan)とは

THPとは、Total Health promotion Plan(トータル・ヘルスプロモーション・プラン)の略称で、厚生労働省が推進している、働く社会人が心身ともに健康的な毎日を過ごせるよう支援していく取り組みのことをいいます。
▼主な取り組みは以下のとおりです。
・健康測定の結果から社員に適切なアドバイスを行う。
・社員に対して『健康測定結果報告書』を配布。
・働く社員に対して健康指導を行う。
最近では経営の基本計画として、THPを導入する企業も増えてきています。
THPの注目される背景
THP(Total Health promotion Plan)が日本の企業で注目されている背景には以下の理由が挙げられます。
1.定期健康診断の「有所見率」の増加
定期健康診断の検査項目で「所見」のあった社員(健康状態の異常が発覚した社員)を有所見者と言います。
2018年のデータになりますが、20代の有所見率は19%、60代以上の有所見率は57%と年齢を重ねるごとに有所見率が年々増加しています。
2.職場の人間関係でストレスを感じる人が増加
2017年の労働安全衛生調査では、「職場でストレスを感じている」と回答した人は58.3%もいることが分かりました。
大きな要因としては、個人の業績に対するプレッシャーや、雇用の多様化、労働環境や人間関係などが考えられます。
3.生活習慣病の増加
3年に一度、厚生労働省によって行われる「国民生活基礎調査」では、人口1,000人に対して404人が生活習慣病の通院患者であるという結果が出ました。
疾患別では以下のとおりです。
・糖尿病
・高血圧症
・肥満症
・歯や目の病気
上記の通り生活習慣病が原因で通院している人が多かったという検証結果となりました。
THPの目的
THPの目的は、自社の社員全員が心身を健康に保つことを目的として行います。
社員一人ひとりの生活習慣の改善や健康管理と指導、ストレスケアなどを持続的に行うために導入する企業も多いです。
また、こうした健康への配慮は社員にとって働きやすい職場環境の構築という形でCSR推進につながり、社員にとってはワークライフバランスの充実につなげる事ができます。
それでは具体的にどのような効果が期待できるのでしょうか。具体的に解説していきます。
THPに取り組むことで得られる効果
1.仕事のパフォーマンスを発揮しやすい職場づくりが実現する。
THPに取り組むことにより、職場の活性化と生産性向上が期待できます。
例えば定期的な健康診断を実施し、必要に応じて健康指導を行うことで社員の健康状態を改善することで、業務のパフォーマンスを発揮しやすい労働環境を構築する事が可能です。
このように社員にとって仕事のしやすい労働環境を構築することで、病欠を減らし業務効率化にもつなげる事ができます。
つまり、THPの取り組みは結果的に社員一人ひとりの生産性を高めることができる施策なのです。
2.企業の社会的評価の向上
THPに取り組むことは社員だけでなく企業にとっても得られる効果は大きく、特に企業のイメージアップに効果的です。
ただ利益のみを追求するのではなく、労働環境の整備や社員の健康に注目した取り組みは、就職活動中の学生や転職を考えている求職者からの印象が良くなり、人材確保にもつなげる事ができます。
3.退職者軽減
健康な社員が増えることで職場の雰囲気が明るくなり、社員同士のコミュニケーションや人間関係も良好になります。
また、「病気やストレスによる入院や通院が続き退職する」といった退職者を減らすこともできます。
4.社員の医療費軽減
THPに取り組むことにより、社員の医療費を軽減させる事ができます。そして、社員が医療機関で受診する頻度が減れば、企業が負担する医療費を削減することも可能です。
また、協会けんぽや健康保険組合で実施している「インセンティブ制度」の恩恵も受けることができるため、企業にとっても、社員にとっても効果の高い取り組みと言えます。
5.仕事の生産性向上
社員の健康状態を良好にすることで、社員は集中して業務に取り組む事ができるため、生産性も向上していきます。
健康経営との違い

THP(Total Health promotion Plan)と近しい言葉に「健康経営」という事があります。
具体的に解説すると以下の違いがあります。
・THP:自社で働く社員の健康状態を良好にしQOL(※1)を向上させる取り組み。
※1:QOLとはQuality of Life(クオリティ・オブ・ライフ) の略称で「生活や人生の質」を指す言葉として扱われています。
THPはあくまで社員のライフスタイルや豊かな人生を歩んでもらうための取り組みです。
・健康経営:企業が成長し収益性を高めていくために社員の健康状態を良好にする取り組み。
健康経営は企業視点で、将来的に収益性を高める投資の考えの下、社員の健康管理を経営視点で考え、戦略的に実施していく取り組みです。
このように大きな違いとしては、THPは社員個人のための取り組みで、健康経営は企業のための取り組みであるといった点です。
健康経営について詳しく知りたい方はこちらから
THPの実践方法
THP(Total Health promotion Plan)は主に以下のステップで進めていきます。
ポイントとしては社員と産業医、指導スタッフとの共同作業で進めていくと良いです。
それではその流れを解説していきます。
ステップ1.健康指導
THPの第一段階は「健康指導」です。「健康測定専門研修」を修了した産業医による健康測定を行います。
▼健康測定の項目は以下のとおりです。
・問診
・生活状況調査
・診察および医学的検査
これらを測定し結果を産業医が評価を行い、最終的に各種指導票を作成します。
ステップ2.運動指導
運動指導は、「ヘルスケア・トレーナー」と呼ばれる運動指導担当者が社員に合わせて作成したプログラムをもとに、ヘルスケア・リーダーのサポートを受けながら行っていきます。
社員の年齢や性別、体力差に違いがあることから「個別指導」がメインですが、肥満や禁煙、禁酒など同じ症状を持つ人との「団体指導」を組み合わせるケースもあります。
ステップ3.メンタルヘルスケア
健康測定の結果、産業医の判断で、「心理相談員」によるメンタルヘルスケアを提供してくれます。社員が希望した場合も、ケアを受診することが可能です。ストレスに対するセルフケアや、リラクゼーション療法による指導が行われるのが特徴です。
ステップ4.栄養指導
健康測定の結果、食生活に問題があると産業医が判断した場合は、「産業栄養指導担当者」による栄養指導が行われます。血液検査の結果などから、栄養バランスが原因で発覚するケースが多いようです。
▼主な原因は以下のとおりです。
・朝食抜きや間食といった食事の習慣
・偏食
・行き過ぎたダイエット
上記の食生活を改善するためのプログラムが組まれます。
ステップ5.保健指導
仕事の疲労を回復するための適切な睡眠時間の確保や歯周病予防など、社員に健康的な生活を送ってもらうために保健指導を行っていきます。
THPに取り組むための方法
THPに取り組むための主な方法は以下の2つです。
1.外部の指導機関にアウトソーシング(依頼)する。
自社でTHPの専門スタッフを用意できない場合、外部の指導機関にアウトソーシング(依頼)する方法がおすすめです。産業医や運動指導員、メンタルケア、栄養指導などを行える人材がいる機関を選べば、安心して任せることができるでしょう。
2.THP専門スタッフを育成する。
社内に健康相談や指導ができる専門スタッフを育成する方法もあります。
メンタルケアや食生活の改善など、選ばれた社員をセミナーや研修会に参加させてTHP専門スタッフになるための教育を行います。これなら外部に委託する必要がないため、THPにかける費用を抑える事ができます。
THPを導入企業の取組事例
最近では多くの企業がTHPを導入しています。最後にTHPに取り組んでいる企業の事例をご紹介させて頂きます。
事例1.デンソー
自動車部品のメーカーであるデンソーは、社長が「デンソー健康宣言」を発令しTHPを積極的に実施しています。
「健康リーダー」と呼ばれる社員が「健康アクションプラン」を作成し、社内で運動会や1分間ストレッチなどを行っています。
また、自社で独自開発したアプリでは栄養状況や消化カロリーなどのデータを確認しています。
事例2.花王
化学メーカーの花王は、社員の健康運動を見える化するためにデータ管理システムを導入しました。また、こちらのシステムに付随してポイント制度も導入しました。
社員が貯めたポイントは日用品と交換可能です。ほかにもウォーキングキャンペーンなど社員の健康を気遣った取り組みを行っています。
事例3.キャノン
精密機器メーカーのキヤノンは、生活習慣を改善するための支援を行っています。
▼主な取り組みは以下のとおりです。
・キヤノン体操
・ウォーキング習慣の定着
・社内報やe-ランニング、イントラネットを活用した健康促進を促す発信
・敷地内禁煙の実施
・禁煙指導スタッフの配置
・喫煙マップを展開
・睡眠計を使った快眠キャンペーン
などなど、社員の健康意識を高めるための啓発運動や禁煙や睡眠改善への取り組みなど幅広く行っています。
まとめ

企業が成長し収益性を高めていくためには、社員一人ひとりの健康管理にも目を向けていく事が重要です。
THPの取り組みによって、社員の生活習慣の改善や生産性の向上などにつなげられます。
また企業側にとっても、社員の健康増進を図れるだけでなく、企業のブランディングや社会的な評価にも繋がります。
THPの取り組みの効果を高めるためには、専門知識を持つ優秀な産業医との連携や関連機関の活用が大切です。
ぜひ、本記事を参考にTHPの導入を検討してみてはいかがでしょうか。