プライバシーガバナンスをご存知ですか?
経済産業省と総務省が2020年8月に策定した「DX時代における企業のプライバシーガバナンスガイドブック」(以下、ガイドブック)で登場した比較的新しい考え方です。
そこで今回は、プライバシーガバナンスの意味から誕生の背景、重要な5項目、関連用語まで解説します。
プライバシーガバナンスとは

ガイドブックには以下のように記述されています。
『プライバシー問題の最適なリスク管理と信頼の確保による企業価値の向上に向けて、経営者が積極的にプライバシー問題への取組にコミットし、組織全体でプライバシー問題に取り組むための体制を構築し、素手を機能させることが、基本的な考え方』(引用:総務省及び経済産業省「DX時代における企業のプライバシーガバナンスガイドブック Ver.1.2」)
端的にまとめると、AIなどを用いて個人のプライバシーデータを容易に分析できるようになった社会だからこそ、企業がその扱いに注意して取り組まなければいけないという考え方です。
プライバシーガバナンスが誕生した背景と活用事例
近年のIT技術向上により、インターネットに容易にアクセスできるようになりました。
例えば、外出先にいながら自宅の状況をスマートフォンで確認できたり、オンライン通販では顧客の購買履歴に合わせて商品をレコメンドしたりすることが可能になっています。
このように便利になる一方で、重要な問題が個人のプライバシー保護です。
消費者は意識せずに商品の決済に必要なためクレジットカードを登録し、氏名や住所を求められるままに入力しています。
つまり、個人のデータを容易に企業へと提供している状態が当たり前になってきているのです。
これらのデータは一歩間違えれば、個人のプライバシーを脅かすものです。
こうしたデータを企業が頻繁に、かつ容易に入手できるようになってきた社会だからこそ、企業に重要性を認識させる「プライバシーガバナンス」という考え方が誕生しました。
日本企業では、プライバシーガバナンスの事例はまだ少ないですが、海外企業では当たり前のように取り組まれています。
例として、iPhoneで有名なAppleの取り組みを紹介します。
iPhoneを使用したことがある方ならご存知だと思いますが、最近のiPhoneではアプリを使用する際に注意書きのようなポップアップが表示されますよね。
このポップアップは、利用者がアプリ以外の他アプリやインターネットなどのWebサイトを使用した際に、そこから顧客(=利用者)の情報を集めてもいいかを確認するものです。
従来であれば、ポップアップは出現せずにデータを集めて、それをもとに、個人に最適な広告などを表示させていました。
しかし、Appleは個人のプライバシー保護のために、利用者に許可を求める形でポップアップを出現させて、プライバシーガバナンスに取り組んでいます。
コーポレートガバナンスとの違い

プライバシーガバナンスと聞くと、コーポレートガバナンスと名前が似ているため似たような意味なのではと混同してしまうかもしれません。
確かにどちらも「ガバナンス」がつきますが、それぞれ意味が異なります。
ガバナンスの意味は、統治や管理です。
コーポレートガバナンスとは、直訳で企業統治を意味しており、企業の不祥事を防ぐために外部監査機関などを設けて企業経営を監視する仕組みのことです。
ガバナンスの対象は「企業経営」のため、「個人のプライバシーデータの保護」を対象とするプライバシーガバナンスとは別物です。
プライバシーガバナンスで重要な5項目
プライバシーガバナンスを実現させるためには、さまざまな視点でリスクや問題点を考慮する必要があります。
そこで、ガイドブックに記述されている5つの重要な項目を説明します。
体制の構築
プライバシー保護を最適化させるためには、以前までのような個人情報を守るセキュリティ対策だけでは不十分です。
企業として、プライバシーを保護するための責任者を中心に、「プライバシー保護組織」を設ける必要があります。
ただし、専門的な責任者の確保が難しい場合には、社員で構成するなど企業によって柔軟に対応することが大切です。
運用ルールの策定と周知
プライバシー保護のために組織を設けて機能させるには、運用ルールの策定と周知は欠かせません。
ただし、求められているプライバシー保護の範囲や問題は個人によって異なることや、社会のあり方によって変化していくため、常に動向を確認し、改善していく必要があります。
企業のプライバシーに係る文化の醸成
企業としてプライバシー保護に取り組んでいくためには、社員それぞれがプライバシー保護に関してしっかりとした理解を持ち、関心を持ち続けることが非常に重要です。
企業内で、定期的な研修を行ったり、社員必読のプライバシー保護に関する冊子の発刊などの方法が有効です。
消費者とのコミュニケーション
企業内でプライバシー保護に取り組むことも重要ですが、個人のプライバシーデータを扱っているからこそ、消費者にその取り組みを公表することも大切です。
企業のホームページや公式SNSなどを活用することで、消費者にも情報が届きやすく、安心や信頼性の向上に繋がるでしょう。
その他のステークホルダーとコミュニケーション
企業は一人だけでは成り立たず、株主や投資家、取引先、グループ会社などさまざまなステークホルダーによって支えられています。
全ての関係者へ企業として行っているプライバシー保護の取り組みを公表することで、透明性の向上や信頼の獲得に繋がりやすくなるでしょう。
プライバシーガバナンスの関連用語
プライバシーガバナンスに取り組んでいくにあたって、知っておくべき関連用語を2つ紹介します。
Society5.0
Society5.0(ソサエティ5.0)とは、仮想空間と現実空間が融合した社会という意味です。
人間の社会は、狩猟(Society1.0)、農耕(Society2.0)、工業(Society3.0)、情報(Society4.0)と発展してきました。
そして、今後目指す社会としてSociety5.0 が掲げられていて、必要な時に必要な情報をすぐに入手できたり、スマートフォン一つで自宅にある家電を操作したりすることを当たり前にしていく社会を目指しています。
DX
DX(Digital Transformation:トランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して、ビジネスや生活様式を変化させていくという考え方です。
企業のDX化ということでよく使用されますが、これは企業がデジタル技術を用いて、顧客や社会へのビジネスを変革させるということを表しています。
まとめ

発展が目覚ましい社会の中で、個人のプライバシー保護の扱い方が重要視されています。
プライバシー保護を進めるために登場した新しい、考え方である「プライバシーガバナンス」を用いて、企業は今後ますます、個人のプライバシー保護の点に力を入れていくことが大切です。
そのためにも、プライバシーガバナンスで重要な5つの項目に注力しながら、経営活動に取り組んでいきましょう。